こうの史代の漫画「この世界の片隅に」好きとしては、ここ数年は本当に幸せであった。
2011年には日テレの終戦記念ドラマとして北川景子主演(めっちゃ美人!)で初の映像化を果たした。
2016年には片淵須直監督によるアニメ映画版「この世界の片隅に」が公開され、その綿密な調査に基づく完璧な原作世界の再現でファンを唸らせた。
そして今回、過去2回の映像化では詰め込み切れなかったエピソードを補完するかのように、全9話の長尺連続ドラマとしてTBS版が放映されるに至った。
制作を変え、放映の形を変え、この短期間に3回も映像化されるなど、原作ファンとしては幸福以外の何者でもないだろう。
そしてそれだけ求められるのも、原作の魅力があればこそである。
その3回目となる映像化となったTBSドラマも、本日最終回を終えた。
今はただただ、制作スタッフに感謝を伝えたい気持ちでいっぱいだ。
当初は、2016年版のアニメ映画が余りにも完成度が高かったが故に、また予算や技術的問題がついてまわる実写TVドラマであるだけに原作の再現度という点で不安視する向きも多かった。
見終わってから思うに、その心配は当たっていた・・・が、しかし、そんなものを補って余りあるくらいのもう一つの片隅世界を構築してくれた。
物語を読み慣れてる人でないと、その行間や裏事情を推し量れない原作をわかりやすく修正したり追加していったこと。
(リンさんと周作の関係なんかは、原作をサラッと読むだけではよくわからないが、セリフやシーンを追加することでよりわかりやすくした)
原作のすずさん、周作さんをバッチリ主演の二人の役者さんが再現してくれたこと。
(すずさんはちょっと謝りすぎな感じはしたけどw でもバッチリすずさんと周作さんでした!)
そして何より、ドラマオリジナルとなる要素で物語をうまく修正・補完してくれたこと。
個人的にはこれが一番大きかった。
例えば刈谷さんは、原作では夫を失い息子も原爆で失い、家族が誰もいなくなる不憫極まる状況で終戦を迎える。
それでも日々生きていかなきゃならないと、逞しく生きる刈谷さんの姿はそれはそれで心打たれるものがあった。
反面、やはりその境遇にやりきれない気持ちになったのも事実だったが、TBSドラマ版では刈谷さんにもうひとり幸子という娘(これがまた良い味出してる役者さんなんだよ!)を追加して、一人ぼっちの最後ではない「救い」を与えた。
その後の北條家、特に拾い子である『節子(原作では名前不明、小説版では陽子)』と主人公『すず』はいったいどうなったのか、幸福に今でも生きているのかといった声はファンの間で多くあった。
アニメ映画版後にSNS界隈で「今でもすずさんはこうしているに違いない」と、半ば公式も同調して匂わせる程度には共通した認識があったのだが、それを「現代パート」を織り込む形で具体的な形としてぶち込んできた。
それを今日観終わって、ああそうか、このスタッフはアニメ版同様にただ原作をなぞるつもりはなかったのだ、今までの映像化を終えてファンたちの間で望んできた「その先」を埋め込んだのだ。
ファンの愛したこの作品の「その先」を形にしたんだ。
そう思って胸がいっぱいになった。
ただし。
今日の最終回では「ファンが望んだ共通認識のその先」だけでは説明できないセリフもあった。
共通認識の具体化だけであれば、きっと最後はカープを応援するすずさんで締めただろうう。
当初はその予定だったんじゃないかとは思うのだけど、そこに「頑張れ!広島!」というセリフをおそらくは急に入れたように見えた。
これは西日本豪雨の被災地へのエールを込めたものではないかと推察する。
さすがに唐突感は否めなかったからだ。
しかし、リアルタイムで起こった災害を意識してそのセリフを入れた事で、「戦中戦後の市井の人々の営みを地続きのものとして描いた」原作に相応しく、その先の現代にまで地続きにしてみせたのだと評価したい。
ありがとう、本当にありがとう。
文句がまったくないと言えば嘘になるが、正直言ってそんな事はどうでもいい。
この名作漫画にいち早く目をつけて映像化した日テレも彗眼であったと思うし、今作含め、3作品それぞれが素晴らしかったとだけ言いたい。
12月には2016年のアニメ映画版に30分の追加シーンを加えた「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」が上映される予定だ。
原作ファン至福の時はまだまだ続く!
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